【1】「コモンズ」:
『人新世の「資本論」』(斎藤幸平著/集英社新書:2020年9月22初版発行)より、いくつかの文節を引用することで、「コモンとは何か」の解説に替えます。(末尾の数字は記載ページです。)
是非、本書を実際にお手に取り、全体を通読されることをお薦めします。尚、本書はコチラから購入できます。
近年進むマルクス再解釈の鍵となる概念のひとつが〈コモン〉、あるいは〈共〉と呼ばれる考えだ。〈コモン〉とは、社会的に人々に共有され、管理されるべき富を指す。・・・(中略)・・・〈コモン〉は、アメリカ型新自由主義とソ連型国有化の両方に対峙する「第三の道」を切り拓く鍵といっていい。・・・(中略)・・・第三の道としての〈コモン〉は、水力や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として、自分たちで民主主義的に管理することを指す。より一般的に馴染みのある概念としては、ひとまず、宇沢弘文の「社会的共通資本」を思い浮かべてもらっていい。・・・(中略)・・・ただし、「社会的共通資本」と比較すると、〈コモン〉は専門家任せではなく、市民が民主的・水平的に共同管理することを重視する。そして、最終的には、この〈コモン〉の領域をどんどん拡張していくことで、資本主義の超克を目指すという決定的な違いがある。(P141~142)
土地は根源的な生産手段であり、それは個人が自由に売買できる私的な所有物ではなく、社会全体で管理するものだったのだ。だから、入会地のような共有地は、イギリスでは「コモンズ」と呼ばれてきた。(P238)
コモンズとは、万人にとっての「使用価値」である。万人にとって有用で、必要だからこそ、共同体はコモンズの独占的所有を禁止し、協同的な富として管理してきた。商品化もされず、したがって、価格をつけることもできなかっ。コモンズは人々にとっては無償で、潤沢だったのだ。もちろん、この状況は、資本にとっては不都合である(注1:当サイト原田の注記)。(P250)
(注1)▶「価値」と「使用価値」の対立(P246)からお読みください。不都合の現実が理解できます。
こうした運動(注2)は、世界的に広がっている。例えば、2019年にデンマークのコペンハーゲンは、誰もが無料で食べて良い、「公共の果樹」を市内に植えることを決めた。今後、市全体が都市果樹園(エディブル・シティ)になるのだ。これは、現代版の入会地であり、「コモンズの復権」といっていい。資本主義の論理とは相容れない、ラディカルな潤沢さがここにはある。(P295)
(注2)こうした運動について、P293の見出し「▶デトロイトに蒔かれた小さな種」から、以下を引用紹介します。
「デトロイトといえば、GMやフォードなど、アメリカ自動車生産の中心地であったが、自動車産業の衰退によって失業者が増え、財政も悪化し、2013年には二兆円近い負債を抱えて、市は破綻した。いわばこの街は、資本主義の夢が潰えた廃墟だった。街から人が消え、治安も悪化し、荒廃した状態だった。だが、残された住民たちは、諦めずに、都市再生の取組を一から始めた。
さらに、
すると、チャンスも見えてきた。人や企業がいなくなって、地価が大幅に下がったために、新しい試みをする余地があることに住民たちは気がついたのである。そして始まった試みのひとつが都市農業である。・・・ワーカーズ・コープが中心となって、荒れ地になっていた街を復活する試みとして、有機栽培が行われるようになったのだ。・・・だが、それ以上に重要なこととして、治安が悪くなっていたせいで、疎遠になっていたコミュニティ・メンバーの絆がもう一度生れてきたのだ。野菜の栽培、ローカルマーケットでの販売、地元レストランへの食材提供といった形で、住民のネットワークが再構築されていったという。もちろん、新鮮な野菜へのアクセスは、住民の健康維持にも貢献する。
【デトロイトの原状】ご参照サイト:デトロイトの取組について、流通経済大学 野澤一博教授の主宰サイトに詳しく紹介されています。コチラからご覧になれます。
国土交通省のサイトはコチラから!
最後に、著者 齋藤幸平氏のメッセージを(「おわりにーー歴史を終わらせないために」から)引用します。
資本主義によって解体されてしまった〈コモン〉を再建する脱成長コミュニズムの方が、より人間的で、潤沢な暮らしを可能にしてくれるはずだ。(P360)
【2】「社会的共通資本」:
『宇沢弘文傑作論文全ファイル』(宇沢弘文著/東洋経済新報社:2016年11月10日発行)より、以下の一節を引用することで、解説に替えます。
尚、本書はコチラから購入することができます。
社会的共通資本は私的資本と異なって、個々の経済主体によって私的な観点から管理、運営されるものではなく、社会全体にとって共通の資産として、社会的に管理、運営されるようなものを一般的に総称する。社会的共通資本の所有形態はたとえ、私有ないし私的管理が認められていたとしても、社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理、運営されるものである。・・・・社会的共通資本は、土地、大気、土壌、水、森林、河川、海洋などの自然資本だけでなく、道路、上・下水道、公共的な交通機関、電力、通信施設などの社会的インフラストラクチャー、医療、金融、司法、行政などのいわゆる制度資本をも含む。(P393)
尚、以下の書籍により、なぜこのような概念が生れて来たかを理解することができます。(2025年4月26日追記)
『社会的共通資本』(宇沢弘文著/岩波文庫/2000年11月20日初版発行)。
【超概要説明】
~「第1章社会的共通資本の考え方」より、以下を抜粋及び引用します~)
1.両陣営のすう勢解説:
【中央集権的な計画経済】:1917年のロシア革命~1991年のソ連邦崩壊。
【分権的市場経済】:ベトナム戦争(1955年~1965年からアメリカ軍は北ベトナム爆撃を開始~1975年終結)を契機としたアメリカ資本主義の衰退。1970年代後半~1980年代の保守主義的な政策・制度改革(特にレーガン政権によるサプライサイド経済学、マネタリズム、合理的期待形成の経済学)。・・・・1992年4月、アメリカ史上最大規模のロスアンジェルス大暴動。
2.ローマ法王による「新しきこと」の提言:
(1)1891年『レールム・ノバルム』:
ローマ法王レオ十三世は、19世紀末のヨーロッパを中心とする世界が直面していたもっとも深刻な問題を特徴づけて、「資本主義の弊害と社会主義の幻想」との言葉で表現された!この100年後、以下が出された。
(2)1991年『新しいレールム・ノバルム』:
ローマ法王:ヨハネ・パウロ二世に拠るものであり、中心テーマは、「社会主義の弊害と資本主義の幻想」
3.以上の状況解説の後、以下のように記載しています。
このような状況のもとで、市民的自由が最大限に保証され、人間的尊厳と職業的倫理が守られ、しかも安定的な経済発展が実現するような理想的な経済制度は存在するであろうか。それは、どのような性格をもち、どのような制度的、経済的特質を備えたものかという問題が、私たちの考察の対象になるわけである。 この設問に答えて、ソースティン・ヴェブレンのいう制度主義(Institutionalism)の考え方がもっとも適切にその基本的性格をあらわしている。P20
なお、本書は次のような章立てとなっています。
序章:ゆたかな社会とは
第1章:社会的共通資本の考え方
第2章:農業と農村
第3章:都市を考える
第4章:学校教育を考える
第5章:社会的共通資本としての医療
第6章:社会的共通資本としての金融制度
第7章:地球環境
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ご参考:宇沢弘文氏には、本書の他多くの著書があります。(アマゾンサイトご参考はコチラ)
